Japanese Ocular Inflammation Society
ベーチェット病
はじめに
ベーチェット病は眼症状、口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍(口内炎)、外陰部潰瘍、皮膚症状などがみられる全身性の炎症を起こす病気です。急性の炎症発作を繰り返すのが特徴です。東アジアから地中海沿岸・中近東におよぶ北緯30°~45°付近の‟シルクロード”と呼ばれる地域に患者さんが多くみられます。厚生労働省の特定疾患医療に認定されている難病の一つです。
症状について
眼のぶどう膜という部分に炎症を起こし、ぶどう膜炎と呼ばれます。約9割の患者さんで両眼に発症します。炎症が前眼部(虹彩や毛様体)のみ起こる虹彩毛様体炎型と、後眼部(網膜や脈絡膜)にまで及ぶ網膜ぶどう膜炎型があります。炎症が発作のように突然起こるため、眼炎症発作と呼ばれます。前房蓄膿という膿がたまるタイプの虹彩毛様体炎を繰り返すことが特徴です。治療をしなかったとしても自然に回復しますが、再発を繰り返します。症状は充血、目の痛み、かすみ感、視力低下、飛蚊症などです。眼炎症発作を繰り返すことで、眼の組織がダメージを受け、視力がだんだんと低下してしまいます。また、繰り返す炎症やステロイド治療が原因で白内障や緑内障を合併することがあり、これも視力低下の一因となります。
検査・診断について
一般的な眼科検査に加えて、造影剤を使った検査などを行います。厚生労働省の診断基準では、眼症状、口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状の4つを主症状、関節炎、副睾丸炎、消化器症状、神経症状、血管炎症状を副症状とします。
病気の経過中に4つの主症状すべてがみられた場合を完全型ベーチェット病、主症状3つ、主症状2つと副症状2つ、眼症状と主症状1つあるいは副症状2つがみられた場合を不全型ベーチェット病としています。
ベーチェット病には特徴的な検査所見がなく、主に症状の組み合わせから診断します。HLA(ヒト白血球抗原)の型として、B51やA26が陽性の患者さんが多いことが知られていますが、あくまで参考所見になります。ベーチェット病の症状は一度に出てくるのではなく、時間経過とともに症状が出そろうことが多いです。そのため、ベーチェット病が疑われるときは、定期的な経過観察が必要になります。
治療について
ベーチェット病によるぶどう膜炎は、眼炎症発作を繰り返すことで眼の組織にダメージが積み重なり視力が低下します。そのため、眼炎症発作を繰り返さないようにして視力を維持することが大切です。
治療は、眼炎症発作時に炎症をすみやかに抑える発作時の治療と、眼炎症発作が起こるのを事前に予防する発作抑制治療に分けられます。
発作時の治療は、前眼部に炎症が起きている場合はステロイド点眼や散瞳剤点眼を使用します。後眼部(網膜や脈絡膜)にまで炎症が起きている場合は、ステロイド薬を眼に注射することがあります。
発作抑制治療としては、好中球遊走抑制薬、免疫抑制薬(シクロスポリン)、TNF阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブ)があります。最初は好中球遊走抑制薬から開始し、それでも発作抑制が不十分な場合は免疫抑制薬、TNF阻害薬と治療を強化していきます。しかし、眼炎症発作が頻回に起こったり、網膜の中心部に病変が発生したりして視力低下の危険性が高いと判断される場合は、早めにTNF阻害薬を開始することがあります。これらの治療は非常に効果的ではありますが、副作用がみられる場合も多いため、ぶどう膜炎の専門医による診察が必要です。